“建築家になる”

8年間

イスを外に出して一日中しゃべっていたい

“遠くに石を投げる”





“遠くに石を投げる”

―― 学生会議:全国の建築家を目指す学生諸君にエールをお願いします。 

 太田 建築家になるための方法はよく分かりません。ただ焦らないで少なくとも8年くらいは(笑)、デザインとか都市とか広い文脈で建築を見てみる方がいいと思います。それから、なるべく逆立ちしてみた方がいいんじゃないかな。フラーとかフューチャー・システムズみたいに全く違うところから世の中を見ると建築の仕事って見つかるんじゃないでしょうか。だから、空間だとかプランニングだとか住宅だとか基本的な素養もあるけど、ものすごい変ったことを考えた建築家ってたくさんいるから、そういうちょっと滑稽なぐらいな人の建物とか、言葉を参照した方が楽しいでしょうね。たとえばカタヴォロスとか、ポール・ネルソンとか、ザヌーゾとか。あと、“ユーモア”が重要な気がしますね。どちらかというと建築家はそういう人種じゃないのかな。

助手のとき、原さんから教わったことのひとつに“何かに詰まったときに遠くに石を投げる”というのがあります。ある会議で、紛糾が予想され大学のキャンパス戦略にブレーキがかかってしまうという危機的な状況が一回ありました。建築家チームの僕らはまじめに要求を解くことで正面突破を図ろうとしたんだけど、会議の前の晩、資料を作っている時、原先生が1/1000の模型に、全然違うプロジェクトの1/2000の模型の変な形を持ってきて突然置き始めたのです。「面白いなあ、これ」とか言っちゃって(笑)。今まで論理的に考えていたはずなのに、何を考えたのか、突然ワケのわかんない事をやり始めて、意味が分からなかった。そして、結局それを翌朝の会議に出してしまったのです。そしたら紛糾していた議会が皆その変な形に気をとられて、「それどうやって作るんですか」みたいな話になって、すっと話がまとまっちゃったんだよね。

あの時、建築家ってそういうことなんだなってちょっと思いました。何かに詰まったときに遠くに石を投げるといったような事がものすごく大事なんじゃないかなって思います。それは皆の注意をごちゃごちゃとした世界から離してやること。「どうやって作るんでしょうね、これ」みたいに思わせて、混沌とした状況から目を離れさせ、新しい世界をつくるんだという情熱を維持させていくことも重要なのだろうと思います。多分建築家ってそういうことだろうなって思っていて、まじめに実践を続ける一方で、未来に起きるかもしれない、ありそうもないことを 考えることも必要なのかもしれません。遠くへ冒険したいという思いは誰もが持って いて、それを共有できるように物事を進めていくことは、建築家の職能としてものす ごく大事なことなんだと思います。     

―― 学生会議:今日はありがとうございました。 

    

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