“建築家になる”

8年間

イスを外に出して一日中しゃべっていたい

“遠くに石を投げる”





イスを外に出して一日中しゃべっていたい

―― 学生会議:都市について聞かせて下さい。 

 太田 もう少し都市のことを肯定したほうがいいんじゃないかなとは思う。例えば塚本さんの“メイド・イン・トーキョー”は事後的な集落調査みたいなもので、現象として都市を捉えている。そういう身振りは分からぬことはないのだけれど、僕は今の都市はやはり醜いし排他的だから、もっと戦わないといけないと思う。90年代後半に歩行者天国が原宿で廃止されたとき、僕は本当に腹が立って、何事かと憤慨しました。東京全域、そして千葉や埼玉とかから毎週あそこでパフォーマンスをすることを楽しみにものすごく練習してくる人たちがいたわけでしょ。それなのに、タケノコ族とかバンドブームを生み出した場所があれよあれよという間に圧殺されてしまった。ヨーロッパは歩行者空間の整備から都市再生をしていたのに、東京はあまりにも性急に車を通してしまった。それは付近の住民が、日曜日うるさくて仕方がないって言うからなんです。僕は都市に住んでいるんだからうるさいのは当たり前だと思うのだけれど、行政と政治家は住民税を払う人の言う事を聞くので、とにかく廃止する。原宿はそのまま表参道のライトアップも廃止して、今じゃ文化の土壌とは呼べなくなってしまった。残ったのはただ消費だけ。

結局“都市は誰のものか”ということに対して“住民”以外の参加者をうまく位置づけられなかったことが原因だと今でも思っています。90年代の東京は閉鎖的だった。他の都市のことは詳しく知らないけど、実感として思うのは、開発のことや新しい店ができたといったことを語ることで、都市・建築を語っていたという感じはある。それについては、建築家が退却したところもあると思っているから、言わないといけませんね。

―― 学生会議:そういったスタンスというのはピクニッククラブの活動と通じていますか? 

もちろんそうなのだけど、結局、一番伝達力があるのは"楽しさ"なのだ、と分かったのは最近のことです(笑)。ピクニック・ライトという言葉で、緑地の解放を主張していると、かなりの人が「その通りだ!」と支持してくれるので、やっぱり都市が開かれていないんだなって改めて思います。仙台のほうが全然いいと思うよ。居場所があると思う。例えばせんだいメディアテークにいればいいとか、木立の下にいればいいとか。東京って、何もしないでいると、「あの人かわいそうに」とか思われるところがあって、依然として排他的なんです。普通の人が皆そう思っているからこそ、東京ピクニッククラブの主張を皆が支持してくれるんじゃないでしょうか。     

―― 学生会議:お話を聞いていて、身体的に都市を捉えて使っていこうといったような、具体的にアクションを都市に対してしていこうという考え方に新しさが見られると思います。 

都市に介入していこうということは、本当に素朴なことで、テーブルとイスを外に出して一日中しゃべっていたいというようなことなのです。今でも原稿を書く場所に困っていて、家や事務所で書けないので、今も20年前と同じように55広場に言ってノートブック広げたりしているわけです。もっと考え事をする場所とかあって欲しいんだけどこの状況は変らないだろうね。減っていると思うぐらいだから。だから実に素朴なんですよ。

―― 学生会議:個人的な趣味などあったら、教えて欲しいと思います。 

そりゃピクニックだよね(笑)。あれは、趣味なんですよ。このごろ本業みたいなんじゃないか、と誤解されているんだけれど、僕は建築家です(笑)。それから、趣味かどうか分からないけれど僕は結構旅行をさせてもらってます。修士2年のときにコンペの関係でウズベキスタンのサマルガンドに行きました。それとパプアニューギニアの集落が修士論文だったから、ワニのいる川で泳いだりしていました。インドネシアとかマレーシア、アイルランド、イギリスは車で一周したし、パキスタン、タイ、ベトナムの地方都市にも行きました。夜間飛行(世界都市展出展作品)みたいなものを作っても、頭の中にカラチ、イスラマバードの人たちの暮らし振りがあります。それは忘れたくないですね。やっぱりデザインヌーブの施主はそっちのほうにいると思うし(笑)。日本で住宅の設計をやっているけど、カラチの人やイスラマバードの人たちと21世紀の建築・都市を作ったほうが面白いし、全然違うものができるんじゃないかなって思う。この前10+1のために南泰裕君とオオニシタクヤ君とタイに行って地方都市を見て回ったのだけど、やっぱり素朴な初心と言うか、もっとダイレクトにデザインの対象をつかみたいといったものはあります。世界の小都市への旅は続けていこうと思っています。

    

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