明日のためのガーデニング
「高嶺格 大きな休息 明日のためのガーデニング1095㎡」展開催にあわせて開催する、作家・高嶺格と本展監修者・吉岡洋による対談。これまでの作品を振り返りながら、現在の社会におけるアートの可能性について考えます。
「Black Garden」のシマウマ柄のオブジェを背にした6Fフロア南側にて、高嶺格氏と吉岡洋氏のスタジオレクチャーが開かれた。ガラスのファサード越しの、午後の日があたたかい。吉岡氏のタートルネックの深緑と高嶺氏のインナーのケミカルな緑を見て、「ガーデニングとかけたトータルコーディネートなのかしら?」、と一人妄想しつつ、わくわくしながら始まりを待つ。オーディエンスも立ち見が出るほど集まったようだった。
二人のつながりは、吉岡氏がディレクターを努めた2003年京都ビエンナーレに高嶺氏を招待した時からだという。高嶺氏の単著『在日の恋人』(京都で出品された作品名でもある)が出版間近ということもあり、話は京都ビエンナーレのエピソードから始められた。トークでは,高嶺格のこれまでと今に焦点が当てられたわけだが、最初に話題にされた「在日の恋人」と今回の「大きな停止」をつなぐ軸線が特に印象的であった。
Slowness。京都ビエンナーレのメインテーマ。吉岡氏は、難解化していく現代アートへの違和感、9・11以後のアートのあり方を考えるなかで,このフレーズを選んだ。高嶺氏は,当初この言葉に抵抗感を覚えたという。豊かな国である日本人がそうした言葉を使うことのおこがましさを。しかし吉岡氏との対話(ご近所さんだったようです)を重ねるなかで、「今やっていることをやめる」、というその意図に共感したという。何かが変わるためには、まず止まらなくてはならないのだろう。
めぐり。吉岡氏は、高嶺氏の一連の作品に、めぐること、巡礼というイメージを持つという。京都ではマンガン記念館の洞窟でインスタレーションが行われた。参加者は、LEDの明かりだけをたよりに、明るい世界から、漆黒へ、闇から、光へ、歩き、めぐる。洞窟のなかの闇は、想像以上に人の心を不安に揺り動かすという。高嶺氏の「めぐる」作品の作りだす、揺れ動く気持ちの起伏を、吉岡氏は物語的であるとも評しておられた。
新作「大きな停止」は、目の不自由な方のアテンドによるツアー形式をとる。私たちは、廃材の庭をめぐる。高嶺氏は、そうしためぐりをとおして、「心のレンジの操作をしたい」と述べられていた。揺れ動く気持ちの連続した時間のなかで、私たちは停止すること、休息することの意味を考え直すのだろう。
笹島秀晃(東北大学大学院文学研究科社会学専攻/「高嶺格[大きな休息]」展サポートスタッフ)