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今年で30回目を迎え、仙台での開催も8回目となるぴあフィルムフェスティバル。若手映画作家の登竜門として確固たる地位を築いているこの映画祭では、「映画の才能の発見から育成」を目指して、公募による「発見」とともに、「育成」として才能ある新しい作家と映画をつくる「PFFスカラシップ」があります。『フラガール』の李相日監督や、『ぐるりのこと』の橋口亮輔監督もこのスカラシップで映画を撮り、今年の作品『不灯港』(内藤隆嗣監督)は11月のPFF仙台でも公開されます。今回は、その「PFFスカラシップ」のプロデューサーである天野眞弓氏を迎え、若く才能ある監督たちのデビュー作を支え続けるという、映画プロデューサーのなかでも類をみない仕事の現場についてお話しいただきます。

ゲストプロフィール

天野眞弓(あまの まゆみ)
東京都生まれ。プロデューサー。1992年よりぴあフィルムフェスティバル(PFF)事務局スタッフとして参加。ぴあと東宝の提携作品『渚のシンドバッド』(橋口亮輔監督/1995年)、『ひみつの花園』(矢口史靖監督/1996年)のプロデュースを経て、1999年、第9回PFFスカラシップ作品『タイムレスメロディ』(奥原浩志監督)をプロデュース、この作品が第4回釜山国際映画祭でグランプリを受賞。以降スカラシップ作品のプロデューサーを務めている。
主なプロデュース作品:
第12回PFFスカラシップ作品『BORDER LINE』(監督:李相日/2002年)
第13回PFFスカラシップ作品『バーバー吉野』(監督:荻上直子/2003年)
第14回PFFスカラシップ作品『運命じゃない人』(監督:内田けんじ/2004年)
第16回PFFスカラシップ作品『14歳』(監督:廣末哲万/2006年)
第17回PFFスカラシップ作品『パーク アンド ラブホテル』(監督:熊坂出/2007年)

レポート

 天野さんは、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のスカラシップ作品のプロデューサーである。
 新人監督が「初めての商業作品」を大勢のスタッフと制作していく時に、「いかに監督の個性を引き出すか」、そして監督の今後のために、「いかに大切な経験を与えることができるか」そのことに大変心を砕いている様子、そして新人監督育成という特殊な仕事を通しての映画への熱い思いが印象的だ。

レポート写真 レクチャーは、今年7月に行われたPFFパーティー会場の映像や、 熊坂出監督の『パークアンドラブホテル』の撮影現場の映像を交えながら、PFFスカラシップの内容に、そして、新人監督との映画製作についての話題を中心に行われた。

 PFFスカラシップは、7月下旬のPFF受賞決定後、9月下旬までに企画提出、10月頃に行われる面接を経て、本格的な脚本づくりに入るとのこと。そしてこの脚本づくりに1年近くの時をかけ、その後撮影に入る。  脚本に1年かけるという話を聞き大変驚いた。しかし、この「脚本をつくるという作業」が映画の骨格をつくるだけでなく、「監督」を「監督」として成長させる。時間や予算の管理、スタッフやキャストの決定…すべてに関わる作業になる。この時点で明確なビジョンを持つことで、現場での一切の無駄を省くことになる、つまりきちんとした脚本をつくることは、1回目の編集作業にも相当するとのことである。

 また、天野さんのこだわり、「監督にフィルムで撮らせてあげたい」というお話も興味深かった。現在は応募作品のほとんどがデジタル作品。デジタルは時間も予算もあまり気にする必要がなく簡便である反面、映像に緊張感がなくなる。「限られた時間と予算の中でフィルム撮影をする経験が後で必ず役に立つ、という考えのもとに、フィルム撮影を続けている。」この言葉は、まさに「監督の育成」という立場にある方の言葉と思った。  それから、もう一つ「影響を受けた映画」という話も興味深かった。
 天野さんは20年近く映画に携わってきたそうだが、初めのころと若い監督たちが変わってきたと話しておられた。かつては各監督が同じ映画の影響を受けていた。その後も、影響された映画は違うけれども、同じ映画の話はできた。でも最近の監督は、古い映画をほとんど見ていないことが多く、観たことのある映画も共有できない。彼女は、「人生の中で一定の時期そういう経験をすることで、その後の製作が大きく変わっていく」と言って、名作だけでなく失敗作も含め、浴びるように映画を見ることを勧めているそうである。

レポート写真  レクチャー後の質問も大変活発で、参加者の関心の高さを感じた。本日のレクチャーを受けたことにより、11月21日〜11月24日のPFF in仙台では、また違った面からも映画を楽しむことができそうである。

加藤知枝(せんだいメディアテーク音声解説制作ボランティア)