北京を読み解く10の視点−都市の新しい見方、描き方
今回は、10のキーワードをもとに「いま、そこにしかない北京」をとらえた都市論的ガイドブック『北京論 10の都市文化案内』(発行:リミックスポイント、発売:丸善)を執筆された建築家の松原弘典氏を迎えてお話しいただきます。
北京在住の松原氏は、1997年から2001年まで伊東豊雄建築設計事務所に在籍し、伊東氏が設計した「せんだいメディアテーク」にも携わり、しばらく仙台で過ごされたこともあります。その後、中国へ渡り、そこに住まい、建築の仕事をしてきた経験から描かれた北京は、マスメディアを通じて私たちが見聞きしているものとは一線を画す姿を見せてくれるはずです。また、世界中で大きく変化し続ける都市に対する、ユーモアと機智に溢れた新たな読解の視点を得ることができるでしょう。
発展する街の表情やさまざまなニュースとともに北京オリンピックも閉幕をむかえようとしていた8月24日、レクチャー第2回目は「北京を読み解く10の視点」と題して北京在住の日本人建築家・松原弘典氏をゲストに迎えた。
新しいタイプの都市ガイドブックでもあり都市論でもある『北京論−−10の都市文化案内』を上梓したばかりの松原氏は、このメディアテークの設計をした伊藤豊雄建築設計事務所に在籍し仙台に住んでいたこともある。今回、自ら携わった現場で話をすることに感慨と若干の緊張を持って臨まれたとのことだったが、そこに住み、建築を生業としている人ならでは目で読み解く北京の姿とその視点の立て方は鋭く、また、時にユーモラスなものだった。たとえば「超モダニズムの世界」というキーワードでは、体育館や公園施設が娯楽の場として再活用される例が紹介され、日本の常識では考えられないような光景に唖然とするとともに、なにか不思議に納得させられるところであった。
なお、それぞれの話は松原氏とともに北京を歩き撮影した淺川敏氏による写真を交えつつ行われた。さらに、会場のスタジオaに隣接したラウンジでは、『北京的多元時間』と題された淺川氏の写真を使った映像作品が展示され、テレビなどで流れ続けた競技場だけの北京とは別のイメージへと想像をふくらませてくれた。
お話の詳細は後の記録に譲るとして、個人的な感想を述べれば、次々とキーワードと写真を示しつつ語り続けた松原氏がレクチャーの最後にややはにかみながら北京への愛を表明してしまう場面が特に印象に残った。ある土地について語られるとき、それを聞く人を旅に誘う力は、その土地への説明しがたい愛着なのではないだろうか。わかりやすさの名のもとにマーケティングの数値のようになった観光案内は、結局のところそのデータを確認することしか訪れる人に要求しない。今回話を聞いた北京が魅力的に感じられたのは、独創的で確かな視点によって描かれていたからであると同時に、ほころんだ口元からこぼれ落ちた北京への愛が、つい私たちにも伝わったからのように思われた。
小川直人(せんだいメディアテーク)