History, His story !
「写★新世界 パリ、ニューヨーク、東京、そして上海」展にあわせて開催する、同展監修者港千尋とコレクター石原悦郎による、都市と写真にまつわるトークセッションです。
「写★新世界」展の関連企画でもあるトークセッションでは、最初に本展の監修者でもあり写真家・写真評論家の港千尋氏が監修を請け負ったいきさつ――この企画の根底には1985年の石原氏の仕掛けた「つくば写真美術館」があり、港氏はそのカタログを今も参照しているということ――が説明された。
次に、今回の展覧会テーマでもある、19世紀末から現代までの各時代を彩ってきた、パリ、ニューヨーク、東京、上海、4都市にまつわる話が展開された。石原氏がコレクションを始めた1960年代のパリの記憶、五月革命後に集めたウジェーヌ・アジェの作品の話、その他、マン・レイやデュシャン、ブラッサイ対ブレッソンなどの伝説的な写真家の思い出話が次々と出てくると聴衆からは深い感嘆の声が漏れた。その後、ニューヨークのパートではリー・フリードランダーの作品に関する思い出(若きマドンナが被写体となっているヌード写真取引時の顛末)や、ウィリアム・クラインとロバート・フランクの比較などの興味深い話が続き、東京のパートでは「ツァイト・フォト・サロンが日本のあるジェネレーションを作ったといえるのでは」という港氏の問いかけに、石原氏は「運が良かった」と謙遜し、「しかし、私は直感で売れる作家とそうでない作家なんてわからない。
だからこそこの仕事はおもしろい」と続けた。
「では現代の日本の写真はどうか」との問いに、石原氏は「タブローに関しては日本と西洋は明らかに力量の差もでる気がするが、写真はレンズを通してシャープな眼でその瞬間を切り取るわけだから(差は無く)、日本の写真家は世界の中でも力量は高いと思う。」さらに、「絵は描く(つくる)が、写真は写すものだから力の集中は絵よりも写真の方が大きいのではないか」と発言した。
そして、「たった一枚の写真が時代を作る時もある」という言葉には参加者一堂が納得。最後に上海パートで、石原氏の「中国のアートは一言で言ってカオスである」という発言に応じて上海在住の批評家、グー・チョン氏から現在中国のアート状況についても発言があった。
今回の展覧会のテーマでもある時代と都市と芸術のトライアングルについては、経済格差のカオス(動乱)の中にこそエネルギーのあるアートが出てくる要因があるのではないか、という言葉で締めくくられた。たくましい実存主義者である世界的なコレクター石原悦郎氏の30年にも及ぶ実経験から紡ぎ出される言葉に、集った人々からは大きな拍手がわき起こり、また、世界を横断するキュレーター港千尋氏の博識なエスコートにも同様に拍手が寄せられた。的確に要点をまとめながらも参加者を飽きさせることのないユーモアあふれるセッションは、新生スタジオでのレクチャーにふさわしい出発点となったのではないだろうか。
清水有(せんだいメディアテーク)