再生にはRealPlayer(無料版)が必要です。

リアルプレーヤー

「写★新世界 パリ、ニューヨーク、東京、そして上海」展にあわせて開催する、同展監修者港千尋とコレクター石原悦郎による、都市と写真にまつわるトークセッションです。

ゲストプロフィール

港千尋(みなと ちひろ)
写真家、写真評論家、多摩美術大学教授。1960年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、パリを拠点に「群衆」「移動」などをテーマに写真家・写真評論家として活動。著書に『群集論』(リブロポート,1991年)、『記憶―「創造」と「想起」の力』(講談社、1996年)ではサントリー学芸賞受賞。2006年第31回伊奈信男賞(写真展「市民の色 chromatic citizen」)受賞。2007年にはヴェネチア・ビエンナーレで日本館コミッショナーを務め、美術作家の岡部昌生氏を起用。原爆の被爆地でもある広島の宇品を対象にしたフロッタージュ作品≪わたしたちの過去に、未来はあるのか≫は国内外で高い評価を得た。
石原悦郎(いしはら えつろう)
ツァイト・フォト・サロン代表。1941年生まれ。立教大学法学部法学科卒業後、フランス、ドイツに遊学。帰国後、美術商として自由が丘画廊に勤務した後、1978年独立しツァイト・フォト・サロンを創立。東京国立近代美術館評議員、三重県立美術館写真評議員、水戸芸術館評議員、フランス文化庁の作品購入キュレーターを歴任。2000年、中国上海で初の写真画廊『上海三亜撮影画廊』の開設に携わり、以後中国現代美術の収集に力を入れている。2007年にはツァイト・フォトコレクションによる写真展を、2008年には中国現代絵画展を上海美術館に於いて企画、開催している。

レポート

 「写★新世界」展の関連企画でもあるトークセッションでは、最初に本展の監修者でもあり写真家・写真評論家の港千尋氏が監修を請け負ったいきさつ――この企画の根底には1985年の石原氏の仕掛けた「つくば写真美術館」があり、港氏はそのカタログを今も参照しているということ――が説明された。

レポート写真 次に、今回の展覧会テーマでもある、19世紀末から現代までの各時代を彩ってきた、パリ、ニューヨーク、東京、上海、4都市にまつわる話が展開された。石原氏がコレクションを始めた1960年代のパリの記憶、五月革命後に集めたウジェーヌ・アジェの作品の話、その他、マン・レイやデュシャン、ブラッサイ対ブレッソンなどの伝説的な写真家の思い出話が次々と出てくると聴衆からは深い感嘆の声が漏れた。その後、ニューヨークのパートではリー・フリードランダーの作品に関する思い出(若きマドンナが被写体となっているヌード写真取引時の顛末)や、ウィリアム・クラインとロバート・フランクの比較などの興味深い話が続き、東京のパートでは「ツァイト・フォト・サロンが日本のあるジェネレーションを作ったといえるのでは」という港氏の問いかけに、石原氏は「運が良かった」と謙遜し、「しかし、私は直感で売れる作家とそうでない作家なんてわからない。 だからこそこの仕事はおもしろい」と続けた。
レポート写真 「では現代の日本の写真はどうか」との問いに、石原氏は「タブローに関しては日本と西洋は明らかに力量の差もでる気がするが、写真はレンズを通してシャープな眼でその瞬間を切り取るわけだから(差は無く)、日本の写真家は世界の中でも力量は高いと思う。」さらに、「絵は描く(つくる)が、写真は写すものだから力の集中は絵よりも写真の方が大きいのではないか」と発言した。

そして、「たった一枚の写真が時代を作る時もある」という言葉には参加者一堂が納得。最後に上海パートで、石原氏の「中国のアートは一言で言ってカオスである」という発言に応じて上海在住の批評家、グー・チョン氏から現在中国のアート状況についても発言があった。

レポート写真 今回の展覧会のテーマでもある時代と都市と芸術のトライアングルについては、経済格差のカオス(動乱)の中にこそエネルギーのあるアートが出てくる要因があるのではないか、という言葉で締めくくられた。たくましい実存主義者である世界的なコレクター石原悦郎氏の30年にも及ぶ実経験から紡ぎ出される言葉に、集った人々からは大きな拍手がわき起こり、また、世界を横断するキュレーター港千尋氏の博識なエスコートにも同様に拍手が寄せられた。的確に要点をまとめながらも参加者を飽きさせることのないユーモアあふれるセッションは、新生スタジオでのレクチャーにふさわしい出発点となったのではないだろうか。

清水有(せんだいメディアテーク)