皆様方へ
地震発生以来一週間が過ぎました。あらためて心よりお見舞い申し上げます。
職場だけでなく皆様のお住まい、御家族、御親戚、御友人等々私共には想像も及ばぬ程多くの御苦労や御心痛を抱えながら日々過ごされておられることとお察しいたします。
このたびの大震災はメディアテーク開館10周年記念のシンポジウムが開かれる正にその前日に起こりました。市長はじめ館のスタッフの皆様方がこの10年間頑張って下さった功績と、その素晴しい成果に心からの感謝を申し上げたいと考えていた矢先にこのような惨事に襲われ、無念でなりません。週末パリから帰国いたしましたが、滞在中会う人毎に、メディアテークは大丈夫かと聞かれました。メディアテークが世界の建築関係者にとって大きな存在であることを改めて痛感した次第です。
想えばメディアテークのコンペティションに取り組んでいた1995年1月に、阪神大震災が起こりました。私達はその惨状を目のあたりにしながら提案をまとめました。以来実施設計、施工に関わる5年半の間、決して阪神の惨状を忘れていた訳ではありません。設計に於いても施工に於いても、新しい提案を採用しつつ地震や火災に対する安全性には十分意欲的に取り組んだつもりでした。優れた構造家、佐々木睦朗氏の発案による免震的構造の採用や、スティールパイプによるチューブとスティールプレートによるハニカム床スラブの構造システムは今回の震災にも十分威力を発揮したものと確信しております。構造材とガラス等の仕上材のジョイント部分にも周到な配慮をしたつもりでしたが、ガラスの部分的な破損、7階天井仕上材の一部落下、書架からの書物の飛散の様子を見ると、まだまだ我々の力不足であったことを思い知らされます。特に天井の仕上材等は我々が通常大きな注意を払っていない部分であり、当然問題ないと看過している部分にも落し穴があることは大きな教訓となりました。しかし被災時に一人の負傷者も出なかったと伺い、少し心が安らぎました。交通網の回復を待って出来るだけ早急に現地を訪れ、状況を調査させていただきたいと考えておりますが、それにしてもスティール工事を請け負って下さった高橋工業はじめ多くの職人さんが、気仙沼等三陸地域の方々であったことを想像すると心が痛みます。皆様の御無事を心からお祈りするばかりです。
今回の惨事に遭遇したとは言え、せんだいメディアテークがこの10年間仙台市の文化振興の拠点として果たした役割は限りなく大きいと思います。それはこの施設が単に図書館や市民ギャラリーを積層しただけでなく、個々のプログラムを超えて市民が自由に集い、憩い、発信できる新しい文化的コミュニティの場となっていたことにあると思います。かつて東北大の建築学科の学生から、自分は特に目的があってメディアテークを訪れる訳ではない、本を探すのなら大学の図書館の方が余程整備されている、しかしメディアテークにいると子供も、高齢者もいて、コーヒー一杯飲みに行くだけでも何か安心するのです、と言われました。つまりここは屋内化された広場のような場所なのです。このような公共施設は現在の日本にはほとんど皆無だと思われます。私にはこの学生の語った、「目的はないけれども何か安心できる場所」としてのメディアテークこそが、今被災された人々にとって最も必要とされる施設ではないかと感じるのです。それは言い換えれば「心の拠り所」です。物質的な安定のためには仮設住宅は勿論必要だし、また食料や水や電気やオイルが暮らしのためにはまず第一に不可欠でしょう。しかしその次には、或いはそれらと同じ位に心のケア、精神の安定を得る場所が必要ではないでしょうか。勿論精神の安寧の場である、と同時により積極的な復興支援の施設としての活動も必要でしょう。例えば医療や教育、福祉等に関する情報支援ばかりでなく、本を読み聞かせたり、音楽や演劇を出張して演ずる全国のボランティア活動の情報拠点となること、世界のアーティストや建築家のチャリティオークションの拠点となること、或いは復興支援のミニコンサートやレクチュアシリーズの企画、全国の建築家や建築家志望の学生達を中心として市民との間のまちの復興支援会議の開催等、さまざまな活動が想起されます。散乱した書物を前に茫然と立ち尽くしておられるスタッフの方々に対して、私達はほとんど慰めの言葉すら見つかりません。しかし館の皆様方がこの10年間、「心の拠り所」のために献身的な努力によって築かれた功績は、大きな財産として震災によっても全く失われることなく生き続けているのです。このストックがいまこそ最大の力を発揮する時のように思われてなりません。
心身ともに疲労困憊の極みに達しておられることと察しますが、どうか勇気と誇りを持ってこの困難に立ち向かって下さい。
私達も出来るだけ早期にお伺いして、いかなるお手伝いが可能かを御相談させていただきたいと切に願っております。
東北は未だ冬のような寒さが続いているようですが、くれぐれも健康に御留意され、頑張って下さるようお願い申し上げます。
伊東豊雄